恋の餌食 俺様社長に捕獲されました
◇◇◇
梓は、一樹に別れを告げたホテルのラウンジから自宅までの道のりを覚えていない。自分がタクシーを使ったのか、電車に乗ったのか。どんな景色を見たのかも、記憶にない。
気づいたときには、自宅の前に立っていた。
人を傷つけると、自分まで傷つくのだと知ったのは初めてだった。
その相手が愛する一樹だったのだ。心は砕かれて粉々。
いっそなくなってしまえば楽になれるのに。そう願ったが、消えはしなかった。
眠れずに迎えた翌朝、バッグに入れたままになっていたスマートフォンを取り出し、履歴を開く。まだ登録していないナンバーをタップして、耳にあてた。
『梓さん?』
名乗るより早く、相手の弾んだ声が聞こえてくる。
重い口を開いた梓は、なんとか「はい」と応えた。
『こうして連絡をくれるってことは、喜ばしいお話が聞けると思っていいんですよね?』
少なくとも、梓にとっては喜ばしくない。