恋のはじまりは突然に
「悪い、遅くなった」
「れ、んじ……さん?」
「ごめんなぁ、だいぶ待ったよな」
「い、いえ……」

突然のことに頭が回らなかった。ずっと会いたかった人ではあるけれど、いざ目の前にすると、ただただ驚きと感動で言葉が出ない。

「で、お前は誰?」
「え、いやー、あのー、誰でしょう……?」

さっきまでの勢いはどうしたのやら。蓮司さんに誰かと問われ、よく分からないフリをするって……。

「ふーん。ま、いいや。隣いいよな?」
「あっ、はい。もちろんです……」

蓮司さんは変な人に構うことをやめ、隣の席に座った。その変な人は、今だ!と思ったのか、ササっと自分の席へと戻って行った。

「大丈夫だったか?」
「あ、はい。ありがとうございました……帰るに帰れなかったので助かりました」
「そう。なら良かった」

どうしよう、会話が続かない。こんなんじゃ会えて嬉しくても、蓮司さんは私といて楽しくないって思っちゃう。

「腹減ったぁ。だし巻き卵、食っていい?」
「え?あ、どうぞ。でも、もう冷えちゃってるかもですよ?」
「あぁ、いいよ。構わない」

蓮司さんはだし巻き卵を口に入れると〝やっぱうまいな〟と言い、近くを通った店員さんにビールを頼み、それが来ると一気に半分以上を美味しそうに飲んでいた。
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