御曹司は偽婚約者を独占したい
すべては二週間後のパーティーでする、彼の婚約者のフリを成功させるための彼のリップサービスだ。
そして、そのパーティーが終われば私の役目も終わって、彼との関係は解消されることになっていた。
だから私は、その二週間の間だけでもいいから、彼との幸せな時間を過ごしたいと思って昨夜、彼に身を委ねたんだ。
私には決して手の届かない、雲の上にいる憧れの彼と……。 たった一度の夢を、見たかった。
「君に、渡したいものがある」
「渡したいもの……?」
「ああ。これを買ってきたせいで、戻ってくるのが遅れた」
けれど近衛さんは、困惑する私を置き去りにして、自身のスーツの内ポケットから何かを取り出した。
「これ……」
彼が手に取ったのは、綺麗な装飾のなされた濃紺の箱だった。
手のひらに乗るサイズのそれの蓋には、彼が務める一流ジュエリーブランド〝ルーナ〟のロゴが、金色の糸で刺繍されている。
「ドレスだけでは未完成だろう? 左手薬指には、これが必要だと思って用意した」
そう言って、彼が開けた箱の中には、大きなダイヤモンドのついたリングが収まっていた。