御曹司は偽婚約者を独占したい
 

──エンゲージリングだ。

ひと目見てわかったけれど、どうしてこれを私に渡すのか、頭の整理が追いつかない。


「サイズは、先ほどドレスを買った店で調べさせたから、間違っていないはずだ」


思い出すのは、先ほどドレスを買ったお店での出来事だった。

ドレスのフィッティングをしたあと、いくつかアクセサリーを見せてもらったときに……確かに、指輪のサイズも測ったのだ。

普段は入らないショップに緊張していたこともあって、そのときは大して疑問にも思わなかったけれど……。


「本来なら、時間をかけて用意するべきものだから、これは間に合わせとして受け取ってくれ。それで、パーティーが終わったらまた改めて、別の場所で──」

「──いただけません」

「え?」

「こんなに高価なもの……というか、さすがにこれは、受け取れません」


不穏に高鳴る胸に手を当てながら、私は震える息を吐き出した。

頭の中はグチャグチャで、思わず下唇を噛みしめる。

 
< 103 / 143 >

この作品をシェア

pagetop