御曹司は偽婚約者を独占したい
──エンゲージリングだ。
ひと目見てわかったけれど、どうしてこれを私に渡すのか、頭の整理が追いつかない。
「サイズは、先ほどドレスを買った店で調べさせたから、間違っていないはずだ」
思い出すのは、先ほどドレスを買ったお店での出来事だった。
ドレスのフィッティングをしたあと、いくつかアクセサリーを見せてもらったときに……確かに、指輪のサイズも測ったのだ。
普段は入らないショップに緊張していたこともあって、そのときは大して疑問にも思わなかったけれど……。
「本来なら、時間をかけて用意するべきものだから、これは間に合わせとして受け取ってくれ。それで、パーティーが終わったらまた改めて、別の場所で──」
「──いただけません」
「え?」
「こんなに高価なもの……というか、さすがにこれは、受け取れません」
不穏に高鳴る胸に手を当てながら、私は震える息を吐き出した。
頭の中はグチャグチャで、思わず下唇を噛みしめる。