御曹司は偽婚約者を独占したい
「また、遠慮しているのか? だとしたら、遠慮なんて必要ない」
きっぱりと言い切った彼を前に、私は俯いた顔をゆっくりと持ち上げる。
「俺が君に贈りたいから、用意したんだ。だけど今言ったとおり、こんな、間に合わせのような形になってしまったのは申し訳ないと思ってる」
ポーカーフェイスな彼の言葉の何を信じたら良いのか、わからなくなってしまった。
思えば、こうして彼と話すようになってまだ二日だ。
わからなくて当たり前だし、住む世界の違う彼が相手なのだから、一生わかり得ることはないのかもしれない。
もしかして彼は、今日買ったドレスや靴一式と、この指輪も、すべて今回の報酬か何かのつもりなのだろうか。
そもそも彼の偽のフィアンセを引き受けることにしたのは、クロスケさんの一件で彼にお世話になったからだ。
お礼のつもりで引き受けたことだから、彼から報酬として何かを受け取るつもりはない。
むしろ、こんなことをされたら、お礼以上のものになってしまう。
「……すみません、やっぱり私には荷が重すぎます」
「え?」
「お礼なら、別の形でしますので、今回の件はなかったことにしてください」
もう、そうする以外の方法が見つからなかった。
最初から、何もかもがおかしな話だったのだ。