御曹司は偽婚約者を独占したい
「あー、美咲さん! お疲れ様でーす」
「ノブくん? どうしたの? 今日は、お休みだったはずだよね?」
約二週間ぶりに会う、ノブくんだ。
ここ最近はシフトが被らず、彼と会うのも近衛さんにエンゲージリングを渡されそうになった、あの日以来だった。
「昨日、お店にペンケースを忘れたから取りに来たところなんです。……っていうか、美咲さん、しばらく会わないうちに、なんか老けました?」
軽口を叩いたノブくんは、やけに清々しい表情をしている。
「そう言うノブくんは、なんか生き生きしてるね……」
思わず脱力しながら答えると、何故かノブくんは満面の笑みを浮かべて、自慢げに胸を張った。
「へへっ、実はぁ〜。三日前に合コンで知り合った女の子と、ちょっとイイ感じなんですよ」
ふふん、と今にも鼻歌でも歌いそうな彼の言葉に驚いて、目を見張った。
「え! おめでとう! でも、ノブくんが合コンに行くなんて珍しいね?」
つい、声が弾む。
だってこの一年、彼と一緒に仕事をしてきて、ノブくんが合コンに行ったと聞くのは初めてだった。
……というか、前に合コンは嫌いだとか言ってたような気がするんだけど、たまたま気が向いたのだろうか。
だけど、思ったことを口にしたら、ノブくんにジロリと恨めしげに睨まれた。
反射的に「え?」と首を傾げれば、何故かノブくんは何かを諦めたように、ヤレヤレと左右に首を振る。