御曹司は偽婚約者を独占したい
「せっかく、父のコーヒーを飲みたいと言ってくださったのに、叶えられなくてすみません」
ヘラリと笑って答えると、近衛さんは一瞬何かを考え込んでから、改めて口を開いた。
「その、父親の喫茶店を継ごうとは思わなかったのか?」
「え?」
「いつか自分の店を持ちたいという夢も叶えられるし、美咲が継げば、父親も喜んだんじゃないか?」
唐突に尋ねられ、目を見張った。
私を見る近衛さんの目は何かを試しているようにも見えて、一瞬答えに詰まってしまった。
「美咲が父親の店を継げば、双方にとって好都合だっただろう」
私が、父のお店を継げば……。確かに、近衛さんの言うとおりだ。
私が父の店を継げば、いつかは自分の店を持ちたいという自分の夢も叶えられたし、父が愛したあの店を閉店せずにも済んだかもしれない。
「……確かに、近衛さんの言うとおりかもしれません」
そっと睫毛を伏せてひと呼吸置いたあと、私は改めて顔を上げると真っすぐに彼を見つめた。
「でも、父の店を継ぐことは、私の夢を叶えることにはならないし、父も……私が継ぐと言っても、継がせなかったと思います」
小さく笑うと、近衛さんが私の言葉の真意を探るように、瞳の奥をのぞきこむ。