御曹司は偽婚約者を独占したい
「俺の父親は、美咲の父親と違って、俺に稼業を継がせたがっていた」
「え……」
「俺には別にやりたいことがあったから、説得して今はもう諦めてくれたけど。当時はなかなか、手強かったな」
くつくつと喉を鳴らして笑う近衛さんは、その当時を思い出すように、目を細めて私を見た。
お父様が稼業を継がせたがっていたということは、近衛さんのお父様も何か事業をやっているということなのだろうか。
「父親は、病院経営をしてるんだ」
「え……っ。そ、それってお医者様ってことですか!?」
「まぁ、そうだな。だから昔は、俺も医者になるのが当然みたいに言われてたけど、結果、反発して法学部に入ったら今のルーナの社長を務める湊に会った。それで、アイツに口説かれて秘書をやってるんだけど、それが今は結構楽しかったりする」
まつげを伏せた彼が綺麗で、また見惚れてしまった。
反発したからといって法学部に入れるなんて、どれだけ優秀だったんだろう……。
それにしてもお父様がお医者様というだけでなく、病院まで経営しているなんて……本当に、雲の上に住む人だ。