御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「そ、それじゃあ、近衛さんの、やりたいことって……」

「ジュエリー業界に一石を投じようとしている友人と一緒に、夢を追い続けることかな」


そう言った近衛さんの表情は穏やかで、本当に彼がルーナの社長を想っていることを感じさせた。

きっと、近衛さんほど優秀な人ならば、法学部を卒業後、弁護士にだってなれただろう。

他にもたくさんの道を、選ぶこともできたに違いない。

でも彼はいくつもの道の中から、秘書という仕事を選んだ。


「近衛さんは……ルーナの社長のことを、尊敬しているんですね」


思ったことをそのまま口にすると、近衛さんは再び、口角を上げて笑ってみせた。


「どうかな。完璧に見えるアイツが、時々ミスしそうになるのを、先回りしてフォローしてからかってやるのが面白いってだけかもな?」


意地悪な物言いに、思わずつられて笑ってしまった。


「……近衛さんって、第一印象と実際が違い過ぎます」

「うん?」

「いつもパレットでコーヒーを飲んでいる近衛さんは、今みたいな冗談を言う人には見えなかったから。それに、昨日のお会計のときに話したときも、すごく紳士な感じだったのに……」


そこまで言うと、彼の綺麗な指が私の肩に落ちていた髪をすくい上げた。

まだ少し湿っているそれを、そっと耳にかけ直した近衛さんは、とても色っぽく笑ってみせる。

 
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