魔法の鍵と隻眼の姫
「なっ、何をっ…!」

文句を言おうとしたトニアスの目に先ほど倒したはずの魔物が走ってきているのが見えた。
仲間がいたらしい。
目前に迫っているその姿を見てもうだめだっ!とラミンを見ると剣に手を掛けたラミンが一歩足を踏み出し抜き身の剣を横一文字に魔物に浴びせた。

ぎゃ…!

最後まで悲鳴も出せないままその魔物は首を切り落とされドサッと落ちる。
切り落とされた首がトニアスの足元に転がり込んできた。

「うわっ!」

ボッと炎を燃え上がらせる魔物の首に後ずさりしたトニアスは、剣を振り血を飛ばした刃を鞘に収めたラミンの顔が青白い炎に照らされそれが最も恐ろしい魔物に見えた。

「おい、大丈夫か?」

放心状態のトニアスに手を伸ばすラミンにハッとした。
苦笑いを浮かべる顔は、もういつものラミンで強張っていた手で恐る恐る差し伸べられた手を掴んだ。
引っ張り上げられ立ち上がりもう燃え尽きようとしている魔物を見つめる。

「危なかったな。まあ、それより、初めてにしてはよくやったよ」

頭をぐりぐりと撫でまわすラミンの手を叩き落とし、むすっとした顔を見せるトニアス。

あんなに必死に戦ってやっと倒したのにラミンはたった一太刀で難なく魔物の首を切り落としてしまった。
初めて倒したのに嬉しさも半減どころか悔しさの方が勝り自分はまだまだだと痛感した。
悔しそうな顔のトニアスに肩を竦め、馬たちが居る方へ歩いて行くラミンの背中を見つめ、それでもラミンは凄い奴だと畏敬の念を抱かせた。

「ノニが守ってくれてたんだな助かった」

馬は大丈夫かと心配したラミンだったがノニが結界を張っていたらしくのほほんと下草を食んでいた。
馬の背で寝転んでいたノニを人差し指でぐりぐりと撫でまわすと嬉しそうな顔をする。

辺りはもう既に真っ暗。
今日はここで野宿しようと枯れ木を集め火をつけた。
ノニに食材を出してもらってテキパキと料理するラミンに感心の目を向けるトニアス。

「ラミンは何でもできるんだな…」

「ああ?そりゃ傭兵だったからな、野宿なんて日常茶飯事だ嫌でもできるようになる」

野宿などしたことの無いトニアスはただ見てるだけ。
何もできない歯がゆさを感じながらラミンに関心を抱く。

ラミンだって名門ドリスター家の嫡男。何もしなくても地位も名誉もその手に掴んでいるというのに家を飛び出し、わざわざ傭兵なんて危険な仕事を選んで生きてきた。
本来ならこんなこともしなくて良かったはずだ。

「何でラミンは傭兵なんかすることになったんだ?」

ラミンの過去を知らないトニアスの素直な疑問。
一瞬手が止まりトニアスと目を合わせたラミンはフッと笑い自分の過去を語りだした。

「俺があの家を飛び出した理由は・・・・」

自分の過去を話すというのはなかなか恥ずかしいもので真剣な顔で耳を傾けるトニアスに苦笑いを浮かべながら、それでも時に面白おかしく話を聞かせてやった。

興味深い話をするラミンに自分の知らない世界を見せてもらっている気がしたトニアスは夢中で聞き入っていると気づかぬうちにふわふわの頭の上に飛んできたノニが欠伸をして寝転んでいた。

話が尽きないまま夜は更けていく・・・。




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