世継ぎで舞姫の君に恋をする

27、王の訪問 (第四話 完)

その夜の遅い時間に、ジプサム王子の部屋に訪れるものがあった。
扉の外に控えていたサニジンは、立ちあがり、顔を引き締める。
訪れたものは、レグラン王とその側近の男である。
「ジプサムはどうだ?」
王はいう。口の端に王はテープを付けている。
サニジンは渋った。
ジプサムは骨折まではないが、かなり酷い状況である。

「何も、止めを刺しに来たわけではない。扉を開けよ」
サニジンは扉を開けた。
王は中をみて、側近に外に残るように手で制し、一人で中にはいる。
王子と王の側近は扉を背にして立ち、王が滑るように入った扉を守る。


王は王子の部屋に入るのは初めてだった。
小さな灯りが数ヶ所だけともされている。
薄暗がりの中、王は部屋を見回した。
勉強家の性質を示す本類が、ひとつの壁を占めている。

手織りの鮮やかな絨毯や、黒い羊のムートンが、椅子に掛けられていたりする。
そのムートンは、ベットの足元にも敷かれている。
部屋は懐かしいモルガンの匂いがする、落ち着いた部屋であった。

「子供の頃、モルガン族に預けていたからか。思い入れが強いな」

王は机の上の、素朴な竹のカップに触れる。日常的に使われるモルガンの器だ。
ベットには、ジプサム王子の顔は口と鼻以外濡れタオルで冷やされた状態で、寝かされていた。
息が腫れた鼻からヒューと鳴っている。
上半身もタオルがおかれていた。
酷い有様だった。
喧嘩慣れしていない柔な王子だから、殴られたことはかなり応えたようだった。


「状態はどうだ」
王は側仕えに声をかける。
黒髪の側仕えは背筋を伸ばしてベットの横に座っている。
一晩中、体を冷やすつもりのようだった。
側仕えは、タオルを水の張った桶で絞っている。
その桶の水のなかには、草原の民がよく使う、炎症を冷ますハーブが数種類入っていた。
手早くひとつタオルを取り替えると、ユーディアは王のために場所をあけ、頭を深く下げた状態でベットの足元に移動する。


「大分良くなりました。朝には腫れがひくのではと思います」
「そうか、、」

王は顔のタオルをひとつ取り、息子の顔を確かめる。
酷い顔だった。
その顔に少し顔をしかめながら、王はいう。

「こんなところに、いたんだな。道理で探しても王宮にはいないわけだ」
ユーディアはびくっとする。
「なんのことでしょう、、?」
その声は震えた。

レグラン王は、改めてユーディアを見る。
「顔を上げよ」
ユーディアは逃げようがなかった。
ゆっくり顔をあげる。その顔は蒼白である。

「ジプサムが変わったのはお前が側にいるためか。その美しい体で、息子をたぶらかしたか」
王はいう。じりっとその間を詰める。

「わたしは、ユーディア。モルガン西の民の世継ぎでもあります。ジプサム王子の側仕えを、男としてしています。
その仕事以外では、王子とはかかわりはございません」

「だが、噂ではジプサムとその奴隷の側仕えは特別の関係だというぞ?だから、史上最高額でおまえを手にいれたのだろう?」

「わたしは、ジプサムさまの友人として助けられたのです。お仕えしておりますが、奴隷扱いではなく、モルガンをベルゼラに対等に、悲劇を繰り返さないために、王子の好意に甘え、その方法を学ばせていただいております。
それが、王子の特別な人であると誤解を招いているのも知っておりますが、訂正せず、それを利用して、通常では学べないさまざまなことを勉強させていただいておりました」
「だが、ジプサムはディアを知っている。ディアと踊るわたしをみて、逆上するほど思い入れているようだったが?」

ユーディアは眠るジプサムを見た。

「王子はユーディアとディアが同一人物だと気がついておりません。モルガンに預けられた時から、祭りのときにはわたしは、ディアになって、ジプサムとあっておりました。それ以外のわたしは、トニーのブルースのような男髪。その印象が強いのでしょう」

王はユーディアを頭からねめつける。
ディアとして会っていたときの、少年のようなレギーはそこにいない。

もっとも、娘のディアもここにはいない。

「ここで、お前を抱いてみれば、その言葉が本当かどうかなどすぐにわかる」

王は一気に間を詰める。
防ごうとしたユーディアの手首が捕まれ、壁に押し付けられた。背中のタペストリーが揺れる。
「や、やめてください」
必死にユーディアはいう。
目の前の男は、自分の采配ひとつで一人の命など簡単に奪え、その運命さえも変える力を持った傲慢な男であった。

「草原の民は、強国の前に風に揺れる芦も同然な、はかないものだ。その体を差し出さねば、お前自身も、残された民も守れまい」
胸をまさぐり、きつく巻かれた晒しに触れる。
「こんなものを巻いているのか!」

王は剥ぎとり、ふっくらした胸を鷲づかみ、さらに逃げられないように体を全体で、その体を壁に押し付ける。
苦痛に顔をゆがめ、あっと息を求めて開いたユーディアの唇を奪う。

唇を解放されるが、王の舌はほほをなめ、耳を噛み、喉に唇を沿わせる。
そして、さらにその唇はユーディアの胸に落ちようとしていた。
王は奪いながらも、ユーディアの知らない快感を引き出そうとする。

「王よ、やめてください」
必死の懇願も、再び唇で塞がれる。
そのジプサムと同じ黒い目は、ユーディアの動きを封じ込める。

「わたしのディア。その心を溶かして、体を開いて、わたしを受けいれてくれ。
わたしの後宮に入れ。後宮がいやなら、王都にでも屋敷を構えよう。あなたが望むなら、モルガンには手出しさせないことを約束する!」

ユーディアの目からはらはらと涙が落ちた。

「あなたは、傷めつけた息子の前でわたしを彼から奪おうとする。
ここでわたしがあなたを受けいれて、あなたに草原の民が守られたとしても、それは根本的な解決にはならないのです!
レギー。モルガンを守るつもりがあるなら、わたしをあなたに縛り付けないでほしい」

レグラン王は目を閉じた。
彼はモルガン族の娘を妻にして、そして後宮の権力争いと愛憎に巻き込まれ、殺されてしまった。

「あなたは、わたしの中のモルガンに、別の面影を重ねている。レギーが欲しいのは、わたしではない」

レグランの緩んだ体から、娘はすり抜ける。

「わたしが恋に落ちたのも草原の民だった。息子はわたしとおんなじなのだな。
わたしはベルゼラの王になり、彼女を不幸にしてしまった。
あの時より上手くやれる自信はあるが、ディアのいう通り、最近のジプサムはわたしと違う方法を模索しているようだ。
それも面白いとわたしも思う」

王はユーディアを見た。
その目はもう奪うような危険な色はなかった。

「おまえの言うようにわたしがモルガンを守るのは根本的な解決にはならないかもしれない。
ただ、ジプサムの考えは、時代の先を行っている!まだ力の世は続くだろう」

王は扉に向かう。
「息子は、トルクメの姫と結婚する。あなたはそれに耐えられるか?」

ユーディアには答えられない。
答えを待たず、彼は最後にユーディアを振り返る。

「あなたはそれまで側仕えでも愛人でもなんでもしたらよい。
そして、青二才の息子に失望したら、いつでもわたしを頼るが良い!
わたしなら、あなたが誰を愛そうとも受け入れる度量はある」

王は去る。
ずるずると、ユーディアは崩れ落ちた。


第四話 完


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