夢物語
 西本くんは壁をなぞり、闇の中のスイッチを探し当て、押す。


 ぱっと廊下から居間にかけての電気が、一斉に灯る。


 (そっか……)


 深く考えず、ただ酔っ払いの行き倒れ防止のために部屋の中まできちんと送り届けようとしただけだった。


 玄関に一歩足を踏み入れて、今さらながら気になった。


 (中に……、彼女が待っているのでは?)


 とりあえず女物の靴は置かれていない。


 でももしかしたら中で、彼氏の帰りを待ちわびながら夜遅くまで起きている可能性がある……。


 そのまま部屋の中まで送り届けようとしていた足は、自然と止まった。


 「……どうしたんですか?」


 私が歩みを止めて、部屋の奥を覗き込んでいたことに西本くんは気付く。


 「え、別に」


 部屋の奥をじろじろ見ていたことを指摘されたら、ちょっと恥ずかしい。


 何ともない振りをしたところ、西本くんは思いもよらぬ言葉を私に投下する。


 「俺、トロフィーなんて集めてませんから」


 「えっ、トロフィー?」


 大会に参加して優勝した際に得られる、トロフィーのことかと思った。
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