夢物語
 「もう朝……?」


 冷えた肌に触れ、私がしばらく姿を消していたのに気付いた様子。


 「……」


 私は無言で布団にくるまった。


 疑惑が確信に変わり、何かを口にするのが怖い。


 動揺が口調に現れてしまいそうで……。


 「志穂」


 甘い口調での呼びかけも、


 「おいで」


 優しく抱き寄せるその仕草も。


 私だけのものではなく、あの人にも同じようなことをしている。


 そう思っただけで発狂しそうになる。


 急に夢から現実に引き戻されたような気分。


 許せない……。


 もう今までのようには、夢中になれない。
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