夢物語
 翌朝。


 優の車で、家まで送ってもらう。


 優の助手席は、私の指定席のはず。


 なのに私の知らない間に、別の女が我が物顔で使っているのかもしれない。


 そう考えると、もうこれまでのようにはくつろげない。


 そして、気の休まらない理由がもう一つ……。


 「コンビに寄るけど、志穂は何かほしいものある?」


 今日は祝日だけど、優は朝から職場に行かなければならない。


 職場で飲むドリンクなどを調達しに、私の家の少し手前にあるコンビニに寄る習慣があるのはいつものこと。


 今日も予想通り……。


 「じゃ……。○○と△△と××買ってきて」


 「了解」


 わざと多岐に渡った注文をし、優が少しでも長い間買い物に時間を要するように仕向けた。


 その間に……。


 バッグの中からスマホを取り出す。


 私のではないスマホを。


 マナーモードになっていることを確かめて、助手席の真下に敷かれているマットの下に隠す。


 これは母のスマホ。


 防犯のために姉が無理矢理持たせたのだけど、電話は家電で済ませておりほとんど使われていない。


 姉は「アップデートが必要」などと言って母をごまかして、持ち出してきたらしい。


 そして追跡アプリをダウンロード。


 準備万端。


 これで優がどこに出向いたか追跡可能……。


 まずいとは思っても、背に腹は代えられない。
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