夢物語
 「ちょっとやめなさいよ、志穂。今運転したら飲酒運転でしょう」


 「あ……」


 家を飛び出す寸前に、姉に止められた。


 今、車は姉が乗ってきたものしかここにはない。


 元々ペーパードライバーで、最近は優の助手席ばかりで運転のレベルはますます低下している上に、今ハンドルを握れば飲酒運転で免停そして、途方もない罰金……。


 「わかった。私が行ってきて証拠写真押さえてくるから」


 「私も連れて行って!」


 「志穂はこのまま留守番して、頭を冷やしてなさい」


 「でも……」


 「二人出てくる瞬間までは無理かもしれないけれど、停車中の車は何とか撮ってみる」


 「……」


 姉のお言葉に甘えることにした。


 今私が出向いて、二人がホテルから出てくるところに遭遇したら、冷静に観察していられる自信がない。


 二人の前に飛び出して、怒鳴り散らしてまさに修羅場に発展するかも。


 夜更けとはいえ人目もある場で、恥も外聞も捨てて殴り込みをしてしまいそう。


 騒動を回避するために、私が冷静になる時間を設けるために姉は夜分一人で写真撮影に出向いてくれた。


 二十分くらいでGPSが教えてくれたホテルに到着し、駐車場には侵入可能だったので、停まっている見覚えのある車を激写。


 程なくそれがラインで送られてきた。


 ナンバーもばっちり写っていて、現実を思い知らされる。


 それから決定的瞬間撮影のために、待機に入る。


 たまたまホテルの出入り口付近にあった建設会社の駐車場に車を停めて監視可能だったため、そこでエンジンを切ってシャッターチャンスを待ち続けてくれた。
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