お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
土がつかないように靴を脱ぎ、静かに部屋へ入る。ぎごちなく窓を閉めたサーシャは、黙り込んだままだ。
「大丈夫…?」
俯くサーシャは頷かない。
肩を抱いた私は、出来る限り優しい声で囁いた。
「心配したのよ?一体、何がサーシャをそんな顔にさせているの…?」
私の顔を見たせいか、再び涙が溢れたサーシャ。ひっく、ひっく、と肩を揺らす彼女に寄り添っていると、しゃくりの合間にか細い声が聞こえる。
「…私は、目ざわりなんだって…」
「え…?」
「いっぱい、嫌なことを言われて…っ、突き飛ばされたの……」
(!!)
「突き飛ばされた…?!一体、誰に…!」
「パーティーに来ていた令嬢たちに。身分が低いのに王子に選ばれた私が気に入らないんだって…。」
ぽろぽろと涙をこぼすサーシャ。
顔は蒼白で、指は微かに震えている。
絶句して彼女を見つめていると、懸命に涙を拭こうとするサーシャは袖を濡らしながら続けた。
「お姉さまのように言い返さなきゃ、って思ったの。でも…こんなことを言われるなんて思わなかったから、びっくりしちゃって…。…っ、こ、怖くて…逃げてきちゃったの……」
ルコットがいない間に見知らぬ令嬢たちに取り囲まれていわれのない悪口を浴びせられたうえに突き飛ばされたなんて、どれだけ傷ついたことだろう。
お嬢様を守れなかった自分を責めるであろうルコットにも優しさゆえ何も言えず、ヴィクトル様とも会わずに会場を飛び出した手前、笑顔で見送った母にも相談出来ない。
サーシャは一人で抱え込んでいたのだ。