お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。

思わず、上ずった声が出た。

戦闘態勢を崩した私に、アレンはさらりと続ける。


「受けた害に対してはそれ同等の仕打ちをもって報いるべきだ、という意味の一つの教えです。」


「うん?」


「つまり、悪役には悪役を、ということですよ。お嬢様の性格上、ただ喧嘩を売るだけでは単にサーシャ様の立場を悪くするだけ、なんて最悪の事態にもなりかねません。」


部屋の扉からおずおずと顔を出したサーシャをちらりと見たアレン。

彼は白い手袋を私の前にかざし、人差し指を立てながら、ふっと笑った。


「ひとつ。私が、いじわるの何たるかを教えて差し上げます。

“敵を作るなら、かしこく、あざとく、したたかに”。

これは鉄則です。」


かしこく、なんて言葉はニナには無縁のスペックであった。

だが、それ以上に心に引っかかる彼のセリフ。

私は動揺を隠せないまま静かに呟いた。


「アレン、私を止めないの…?」


「とんでもない。私に主人の意向を止める権限はありませんよ。…まぁ、大切なお嬢様を危ないところに一人で行かせるつもりはありませんけどね。」


“まさか”

そう思った時にはすでに、アレンの琥珀の瞳はブラックスイッチが入ったように好戦的な色を宿していた。

胸に手を当て、流れるようにかがんだ彼の低く艶のある声が、はっきりと響く。


「私でよければ知恵をお貸ししましょう、お嬢様。

ーーこの私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。」


本心を悟らせない、彼の余裕のポーカーフェイスが瞳に映った。

同時に、私とアレンの歯車がピッタリはまって勢いよく動き出したような。それでいて、後には引けないと奮い立たせるような胸の高鳴りが私の体を震わせたのだった。

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