お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
お嬢様力の習得は、私が長年避けてきたものであった。
焦りが込み上げる私に、はっ!と何かを思い出したダンレッドが、ぽつり、と声を上げる。
「そういえば、二週間後に王子主催の舞踏会があったな。」
「えぇ。当面は、その舞踏会を目標に仕上げるべきでしょう。」
そう続けたアレンは気づいているだろう。私が舞踏会で踊れる曲など、一つもないということを。
唯一出来るのは、コサックダンスくらいだ。
「なぁ、アレン。本来のようにサーシャ嬢が出るわけにはいかないの?彼女は他の令嬢に引けを取らないくらい踊れる力がありそうだけど。」
そう言って腕を組んだダンレッドに、アレンが目を細めて答える。
「確かに、サーシャ様が出るのが一番良い方法ですが…。以前、パーティー終了後に、懲らしめた令嬢達の執事が“主人の仕返しだ”と絡んできた一幕がありました。再びあのような危険に巻き込まれるという可能性も無くはありませんので、サーシャ様は参加しないほうがよろしいでしょうね。」
「えっ…!」
つい、声を上げる私。
そんな情報、初耳だ。
「アレン、大丈夫だったの…?!」
「えぇ。偶然居合わせたダンレッドが、全員倒してくれたので。」
「そうなんだ…?アレンも一緒に喧嘩をして、危険な真似をしたわけじゃないわよね…?」
すると、ぱちり、と瞬きをしたアレンは、ニッコリと微笑んで優しく返す。
「心配しないでください。私は平和主義者ですから。人を殴ったこともありませんよ。」
「そ…、そうよね。」
確かに、彼のいう通り、今までアレンが誰かと喧嘩をしたり、危険なことに首を突っ込んだりしたところは見たことがない。
ほっ、と胸をなでおろした私だが、ダンレッドだけは何か言いたげにアレンを見つめていた。