闇に溺れた天使にキスを。
「だって、みんなが見てるのにかんだ……んっ」
神田くんって言おうとしたら。
その本人の手で、口を優しく塞がれてしまう。
「……ここでは神田じゃないよ、佐久間。
偽名で呼んでね」
「……っ」
さらには耳元で、そっと囁かれて。
彼の息が耳にかかって体がピクッと反応してしまう。
「間違えて呼ぶたびに、白野さんに意地悪するから覚えておいて。恥ずかしいことたくさんしてあげる」
恥ずかしいこと。
その言葉だけで顔が熱くなり、ドキドキしてしまう私も私だ。
「もしかしたらみんなの前でキス、してしまうかもね」
意地悪な言い方。
私しか聞こえない声の大きさで話してくる。
周りにはいったい、私たちがどう見えているのだろう。
「……っ、佐久間、くん…」
とにかくそれは回避しないといけない。
そのため、心の中で何度も“佐久間くん”と連呼する。
今、彼は神田くんじゃない。
総長をやっている佐久間くんだ。
そう思うけれど、やっぱり不思議だった。
偽名を使うのに、どのような意味があるのかわからなくて。