闇に溺れた天使にキスを。
「じゃあ寝ない」
「あっ、それはダメです」
「だって白野さんは寝ないんだよね」
私が横にならないと神田くんも横にならないだなんて、子供のような言い訳だ。
「じゃあ横になるから、先に神田くんが横になるの」
結局私が折れるしかないようで、諦めて彼の言う通りにすることにした。
「うん。じゃあ白野さんは抱き枕ね」
「わかった……って、え?」
「返事したから決まりだよ」
なんだか神田くんの策略かなんかにはまっているような気がするのだけれど、大丈夫だろうか。
「抱き枕がほしいの?」
「うん、ほしい」
「じゃ、じゃあ用意してもらおう」
「この家に抱き枕なんてないよ」
「涼雅くんに買ってきてもらうとか…」
「市販の抱き枕なんていらない」
神田くんはベッドに腰を下ろしたかと思うと、私の腕を掴んだ。
その力は振りほどけないほどに力強い。
「……あの、手を」
「はい、捕獲」
手を離してと言う前に、神田くんは私の腕を引いて。
そのためベッドに倒れ込んでしまいそうな私を、優しく彼が抱きとめた。
「ご、強引…」
「暴れたらダメだよ、怪我が痛んじゃうから」
「……っ」
こういう時に限って、怪我という言葉を出してくる彼は本当にずるい。
「怪我してるから安静にするんだよ」
「だから一緒に大人しくしようね」
最終的に私まで巻き込んで横になる神田くん。
本当に抱き枕にするようで、私を離そうとする気配はない。
もちろん私も下手に動いて彼の傷を悪化させてはいけないため、その場でじっとしていた。