闇に溺れた天使にキスを。
*
その後はふたりとも寝ようとせず、ただ穏やかな時間が流れていた。
8時を過ぎたところで私と神田くんは部屋に運ばれてきた夜ご飯を食べ、今度は別々にお風呂へと入る。
ここには多くの人たちが住んでいるようで、なんとお風呂がふたつあるようだった。
そしてお風呂に入った後は、神田くんに渡された服───
ピンクをベースとした浴衣を着る。
お風呂あがりに浴衣だなんて、旅行に来た気分だったけれど。
なんだか生地や着心地からなどからして、旅行で着る浴衣なんかよりもずっと上品な気がした。
そんな浴衣を私なんかが着てもいいのかと思ったけれど、結局迷いながらも着ることにした。
「犯人はまだ見つからないのか?」
「ああ、行方を追っているが未だに掴めねぇ」
二階へ上がろうとしたけれど、階段付近で黒服姿の男の人がふたりで話していたため急いで立ち止まる。
「でも関係者に間違いないんだよな」
「ああ、確かに犯人は拓哉さんの命を狙った」
「相手はフード被ってたみたいだし、手がかりはほぼゼロか」
「拓哉さんは相手の右手首の骨を折ったと言っていたが…手がかりはそれぐらいだな」
深刻そうに話すふたり。
神田くんを刺した犯人の行方を追っているようだ。
未だに捕まっていない犯人は、神田くんの命を狙った?
でもあの日、彼は私を庇うようにして刺されたのだ。
つまりたまたま私を狙おうとした通り魔なんじゃないかと思うけれど───
「でも相手は拓哉さんに女がいるって知ってるんだろ?」
「どうやらそうらしいな。涼雅さんが言うには、直接拓哉さんを狙ったら敵わないからわざと拓哉さんの女を狙ったって…」
「おい」
その時、私の横を通り抜けて誰かがふたりの会話を遮った。