闇に溺れた天使にキスを。
けれどその相手を確認する余裕もなくて。
『わざと拓哉さんの女を狙った』
その言葉が本当だとしたら、神田くんの女とは間違いなく私のこと。
つまり神田くんは私のせいで───
「いつ誰が聞いてるかわかんねぇ状況でそんな話するんじゃねぇよ」
低く脅すような声。
それは確かに涼雅くんのものだった。
「す、すいません」
「気をつけます」
ふたりの男の人たちは、涼雅くんに謝るなりその場を去っていく。
幸い私の姿は壁で死角になっており、見られなくて済んだけれど。
「別にお前が気にすんじゃねぇよ」
ゆっくりを顔を上げた涼雅くんが、私の姿を捉えた。
「……でも」
「ここはそういう世界だ。女を人質にしたり、ダシにしたり。それをも覚悟した上で、拓哉はお前を側に置く選択をした」
わかっていたつもりだった。
神田くんや涼雅くんの生きる世界が、とても危険だっていうことを。
けれど私は何もわかっていなかったんだ。
私の存在が神田くんをより危険な目に遭わせている。
その事実にどうして今頃気付いたのだろう。
「これ聞いて拓哉と別れるなんて思わないほうがいいぜ。もう遅いから」
「じゃあこれからも神田くんは、私のせいで命が危険に晒されるの…?」
そんなの嫌だ。
「もともと命は狙われてるんだから、別に一緒だろ」
「違うもん、やだよ私のせいで…」
「だからお前のせいじゃねぇよ。それに巻き込まれた側なんだから、危険に晒されたのはお前のほう」
「違う、だって私も…」
「うるせぇな。泣くなよめんどくせぇ」
呆れたような顔をして私に近づいたかと思えば、頭をわしゃわしゃと撫でられる。