闇に溺れた天使にキスを。
「あーそうだな、佐久間の彼女だったな。
それで?夏祭りの日は何がおかしかったんだよ」
棒読みで話を強制終了させた涼雅くんが、また本題へと戻った。
「……まあ、普通に考えて“どうして知っていたのか”って話だよね」
「つけられてたんじゃねぇの?」
「いや、それは絶対ない。集団ならまだしも相手はひとりだったし、つけられていたなら気づくはずだから」
「確かに佐久間は視野が広いからすぐわかるもんな」
「うん、だから相手はひとりで突然現れたんだ」
夏祭りの日のことを思い出し、ふたりで話を進めている。
あの一瞬の出来事で、ここまで深く考えることのできるふたりは頭の回転が相当速い。
「ひとりって、確かになんか引っかかるな。
本当にひとりだったんだろ?」
「そうだよ。それも完全に白野さんを狙ってた。
俺が庇うことを知っていて」
神田くんの声のトーンが少し落とされる。
その瞬間、地下の空気が冷たくなった気がした。
「だから相手は“白野さんの存在”と、“俺と白野さんの関係性”を知っている。
それだけじゃなく、夏祭りに行くことも知っていた」
「つまり、その相手は……案外身近にいるかもしれねぇってことか。裏切りの可能性だってある」
涼雅くんの声がどこか脅しにも聞こえ、ここにいる全員が息を呑んだような気がした。
空気が張り詰める。
「でも華さんじゃないのは確実だね。
右手首には傷ひとつなくて、動かせていたから」
その言葉を聞いて思い出す、“神田くんが刺された時、相手の右手首の骨を折った”ということを。
本人から聞いたわけじゃなかったけれど、今ので事実なんだとわかった。
そう思ったら少しだけゾッとした。
あの刺された状況で、冷静な判断ができる心の余裕が神田くんにあったのだと思うと。