闇に溺れた天使にキスを。
「あー、じゃあ仲間をひとりずつ見ていったらいいのか。手首折れてないか」
「でも時間は経っているから、平気なフリをできるかもしれない」
「確かにな。多分仲間内ではない気がするけど」
「それは俺も同意だな」
一方で涼雅くんは一切動じておらず、さらには手首の骨折についてより深く神田くんと話している。
ここの世界では“骨折”なんてもの、それほど重大な怪我ではないのだろうか。
そう思うと恐怖心が駆りたてられ、この世界の怖さを改めて思い知らされた。
「ただ、妙な胸騒ぎがする」
その時、神田くんの低く静かな声が地下に響いた。
「佐久間がそんなこと言うと、ロクなことねぇんだよな」
周りは息を呑み、ふたりの会話を見守る中。
涼雅くんだけは面倒くさそうに眉をひそめた。
ロクなことがない。
それは遠回しに、“何かがある”ということを指しているのではないかと思った。
「だから今回は警戒しようか。白野さん、この件が落ち着くまで学校の行き帰りは車移動ね」
「えっ…!?」
神田くんが車で行くのはわかるけれど、私まで車だなんてそんな贅沢は申し訳ない。
そのため首を横に振る。
「そ、そんな…私は大丈夫」
「ダメだよ、白野さんだっていつ狙われるかわからない。だから安全のため、車で行くよ」
けれど最終的には強制されてしまう。
「ほ、本当にいいの…?
あ、じゃあ神田くんの家まで私が行けばいいのか」
私なんかのために申し訳ない気持ちでいっぱいになったため、自分なりに考えたことを口にした。