闇に溺れた天使にキスを。



けれど───


「……お前って本当バカだよな」


涼雅くんにはバカだと言われ、神田くんにはため息をつかれてしまう。


「え……どうして?」

「白野さん。俺たちが言いたいのはね、白野さんにはひとりで外をうろついてほしくないってことだよ」


「ひ、ひとりで外に出たらダメなの?」

「うん、しばらくはダメ。出たいなら俺や涼雅を呼ぶか、白野さんのお兄さんと出かけるか。必ず敵が手を出せない状況にいるようにするんだよ」


はっきり『ダメ』だと言われてしまい、それほど危険な状況にいるのかと不安になる。


「今、危ないの…?」
「わからないけど、もしかしたら」

「じゃあ神田くんも涼雅くんも、危ないんでしょう?」


私なんかよりもふたりの方が危険なはずだ。


「……バカか、俺たちは狙われることに慣れてるからどうってことねぇよ。それに負けない自信の方が強い。

でもお前は違う、すぐ捕まって乱暴にされる場合だってあるんだぞ」



真剣な表情で涼雅くんは話し、私のほうをじっと見つめる。

けれど最初のひと言目は、少し声が上ずっていたような気がした。


「……乱暴」


過去に涼雅くんがした話のことを思い出す。


私は人質にされたり、襲われたりするのだと。

そんなことが身近に迫っているのだと思うと、怖くてゾッとした。


不安が拭えなくて、うまく言葉を返せないでいると───


「……白野さん」


神田くんが私の名前を呼び、腰にまわされている腕の力をぎゅっと強められた。



「不安にならなくていいから。でも白野さんが不安なら、しばらくは俺とずっと一緒にいる?」



耳元で甘く誘うように囁かれ、色気を漂わせる神田くん。

あっという間に不安な気持ちからドキドキへと変わってしまう。



まるで魔法みたいだった。
一瞬にして私の気持ちを変えてしまうから。

< 428 / 530 >

この作品をシェア

pagetop