闇に溺れた天使にキスを。
けれど───
「……お前って本当バカだよな」
涼雅くんにはバカだと言われ、神田くんにはため息をつかれてしまう。
「え……どうして?」
「白野さん。俺たちが言いたいのはね、白野さんにはひとりで外をうろついてほしくないってことだよ」
「ひ、ひとりで外に出たらダメなの?」
「うん、しばらくはダメ。出たいなら俺や涼雅を呼ぶか、白野さんのお兄さんと出かけるか。必ず敵が手を出せない状況にいるようにするんだよ」
はっきり『ダメ』だと言われてしまい、それほど危険な状況にいるのかと不安になる。
「今、危ないの…?」
「わからないけど、もしかしたら」
「じゃあ神田くんも涼雅くんも、危ないんでしょう?」
私なんかよりもふたりの方が危険なはずだ。
「……バカか、俺たちは狙われることに慣れてるからどうってことねぇよ。それに負けない自信の方が強い。
でもお前は違う、すぐ捕まって乱暴にされる場合だってあるんだぞ」
真剣な表情で涼雅くんは話し、私のほうをじっと見つめる。
けれど最初のひと言目は、少し声が上ずっていたような気がした。
「……乱暴」
過去に涼雅くんがした話のことを思い出す。
私は人質にされたり、襲われたりするのだと。
そんなことが身近に迫っているのだと思うと、怖くてゾッとした。
不安が拭えなくて、うまく言葉を返せないでいると───
「……白野さん」
神田くんが私の名前を呼び、腰にまわされている腕の力をぎゅっと強められた。
「不安にならなくていいから。でも白野さんが不安なら、しばらくは俺とずっと一緒にいる?」
耳元で甘く誘うように囁かれ、色気を漂わせる神田くん。
あっという間に不安な気持ちからドキドキへと変わってしまう。
まるで魔法みたいだった。
一瞬にして私の気持ちを変えてしまうから。