闇に溺れた天使にキスを。



「朝までは何も言われてなかったのにいきなり任務とか、白野さんとの時間を割きたいのかなあの人」


「そんなつもりねぇだろ。
佐久間に任せたいことができた、ただそれだけだろ」


神田くんが“あの人”と濁した相手は、なんとなく彼のお父さんである組長な気がした。



「そうだけどさぁ、せっかく白野さんといられると思ったのに……夏休み明けて早々、ついてないな」

「文句あるなら直接言え」


「涼雅は白野さんといられるからそんなこと言えるんだよ、なんか毎回涼雅が白野さんの送り迎えしてない?」


ブツブツと不平を言う神田くん。
どうやら本当に行かなければいけないようで。

それは少し寂しくて、腰にまわされた神田くんの手に自分の手を重ねた。


「白野さん?」
「……寂しい」



もうすぐで一緒にいられないのだと思うと、寂しくてたまらない。


「……っ、そんなかわいいこと言わない。
離れたくなくなるから」

「じゃあ離れないで」



長い期間、神田くんと会えなかったのだ。

ダメだとわかっていても、今日くらいは近くでいたいと思いわがままを言ってしまう私。



「もー、俺を苦しめたいの?
そんなこと言われたら悩むよ、俺」

「……ううん、嘘。大丈夫」


今になってわがままを言ってしまったことに後悔した私は、首を横に振ってさっきの言葉は嘘ということにした。


本当は嘘じゃないけれど。
本音だったけれど。

神田くんを困らせてしまうほうが嫌だったし、何より私なんかが行ってもいい場所ではないはずだ。


つまり足手まといになるだけ。

< 430 / 530 >

この作品をシェア

pagetop