闇に溺れた天使にキスを。
「朝までは何も言われてなかったのにいきなり任務とか、白野さんとの時間を割きたいのかなあの人」
「そんなつもりねぇだろ。
佐久間に任せたいことができた、ただそれだけだろ」
神田くんが“あの人”と濁した相手は、なんとなく彼のお父さんである組長な気がした。
「そうだけどさぁ、せっかく白野さんといられると思ったのに……夏休み明けて早々、ついてないな」
「文句あるなら直接言え」
「涼雅は白野さんといられるからそんなこと言えるんだよ、なんか毎回涼雅が白野さんの送り迎えしてない?」
ブツブツと不平を言う神田くん。
どうやら本当に行かなければいけないようで。
それは少し寂しくて、腰にまわされた神田くんの手に自分の手を重ねた。
「白野さん?」
「……寂しい」
もうすぐで一緒にいられないのだと思うと、寂しくてたまらない。
「……っ、そんなかわいいこと言わない。
離れたくなくなるから」
「じゃあ離れないで」
長い期間、神田くんと会えなかったのだ。
ダメだとわかっていても、今日くらいは近くでいたいと思いわがままを言ってしまう私。
「もー、俺を苦しめたいの?
そんなこと言われたら悩むよ、俺」
「……ううん、嘘。大丈夫」
今になってわがままを言ってしまったことに後悔した私は、首を横に振ってさっきの言葉は嘘ということにした。
本当は嘘じゃないけれど。
本音だったけれど。
神田くんを困らせてしまうほうが嫌だったし、何より私なんかが行ってもいい場所ではないはずだ。
つまり足手まといになるだけ。