闇に溺れた天使にキスを。




「……ごめんね白野さん」


ひとりでそう考えて勝手に落ち込んでいると、神田くんに謝られる。


もちろん断られるのはわかっていたため自分から嘘だと言ったのだけれど、謝られると余計に胸が苦しくなった。



「う、うん…大丈夫」

「……また今度、俺の家においで?
寂しい思い全部消してあげるから」

「……っ」


どうやって、だなんて聞けるはずがなく。

キスを勝手に想像してしまった私は、ひとり恥ずかしくなり顔が熱くなった。


寂しくて落ち込んでいた感情を、神田くんは言葉ひとつで消してくれるんだ。


「…あ、今絶対に白野さんやらしいこと考えた」
「か、考えてない…!」

「食いついてるから余計に怪しい」
「……っ、き、嫌いっ……今の神田くんは大嫌い」


私に追い打ちをかけるかのようにして、そんなことを言ってくるから嫌いだと連呼する。


「どうしてそんなひどいこと言うの?」
「嫌いだもん……嫌い、意地悪」

「そんな嫌いって言われたら、悲しくてその口塞ぎたくなるね」

「……っ」


彼には敵わない。
言葉での抵抗も虚しく終わる。



「ほら、最後くらい俺を元気付ける言葉ちょうだい。俺だって白野さんと離れるだなんて、寂しくて心折れそうだよ」


「……本当?」


本当に神田くんも、寂しいと思ってくれてるの?



「本当だよ。だって今日は白野さんの時間が許す限り一緒にいるつもりだったから」


その時、腰にまわされる手の力が強められた気がした。

神田くんも私と同じ気持ちなのかなと思えば、嬉しくなって。


「神田くん、嫌いなんて嘘だよ…大好き。今日は我慢するから今度、神田くんと一日中一緒にいたい」


周りに人がいるし、隣には涼雅くんもいるんだとわかっていたけれど、恥ずかしさよりも本音を言いたい気持ちが勝る。


そして思わず頬が緩む状態で、神田くんのほうを見上げれば───


「……へ」
「……っ、見ないで」


すぐ目元を手で覆われ、視界が真っ暗になったけれど。


確かに私はこの目で見た。

ほんの一瞬だったけれど、神田くんの頬が少し赤く染まっていたところを───

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