闇に溺れた天使にキスを。







「俺たちもそろそろ行くぞ」


先に神田くんが帰り、10分ほど経ったところで宮木さんが迎えに来てくれたようで。

私たちは地下の階段を上る。


一階はやはり薄暗く、廃れて不気味な雰囲気を漂わせていた。


ここを通るのは慣れなくて、バレない程度に涼雅くんのそばに寄り添ったつもりだったのだけれど。


「怖いなら掴んどけば?」


簡単にバレてしまったようで、視野が広いのだなと思った。


「ありがとう」


涼雅くんの言葉に甘え、シャツの裾をそっと握る。



「シワになったらクリーニング代請求するからな」
「えっ、あ…わかった」

「バーカ、嘘に決まってんだろ」
「なっ…」


そんなのわかるわけない。

いつもの調子で言われると、本気なのかなって思うに決まっている。


「素直なやつ」
「……嫌い」

「お前、悪口のバリエーション少なすぎだろ。
拓哉にも俺にも嫌いしか言えねぇのか」


少し言い返してやろうと思ったけれど、涼雅くんはまだ酷いことを言う。

だから私は、ぎゅっとシャツを掴む手に力を込めてやった。



「お前、さすがにそんな握るとシワになるだろ」
「クリーニング代請求しないって涼雅くんが言った」

「……幼稚」
「別にいいもんね」


ここは引いてやらないぞと思っていたら、涼雅くんに手首を掴まれ引き剥がされてしまった。


「ほら、怒ったっていいことねぇぞ」
「だって、涼雅くんが…」

「俺が悪かったから。早く行くぞ」
「むっ、棒読みだ」


「もともとだろ」


最終的には手首を掴まれたまま、廃れた工場の一階を抜け、宮木さんの待つ車へと向かう。

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