闇に溺れた天使にキスを。
「今はダメ」
「一回だけだから」
そんなかわいく頼んだって騙されない。
こんなところでキスなんて、恥ずかしくて心臓が壊れてしまう。
「一回でも無理です」
「厳しいね」
「人前でやろうとしないで…」
何度もキスさせない方向に持っていくのだけれど、神田くんはまったく気にする様子はない。
「でも俺って結構自分勝手だから」
「え…」
彼の言葉がうまく聞き取れず、戸惑ったその瞬間。
唇をそっと重ねられた。
ダメだと言ったのに、神田くんは無視してきて。
「……っ、どうして」
「白野さんがかわいすぎて我慢できなかったんだ」
ごめんねって、絶対反省していないのに謝ってくる。
「やだ、恥ずかしいよ…」
宮木さんにミラー越しで見られたかもしれないと思うと、恥ずかしくて顔がたまらなく熱くなった。
「そんな照れなくて大丈夫だよ」
神田くんが嬉しそうに笑ったかと思うと、また私を抱きしめる。
恥ずかしさを紛らわせるようにして、私は彼の胸元に顔を埋めた。
恥ずかしい気持ちが大部分を占める反面、神田くんとこうやって触れ合うのは久しぶりで嬉しいなと思う気持ちも入り混じる。
「あー、本当に白野さんがいると癒されて元気でる。ずっとこうしていたい」
彼だけでなく私だって、ずっと神田くんとこうやってそばにいたいなと思うけれど。
今はまだ我慢時なのだ。
「でもごめんね、白野さん。
今日の帰りは一緒に帰れないんだ」
「え……」
申し訳なさそうな彼の声に、また顔を上げる。
だって確かに神田くんは一緒に帰れないと言った。