闇に溺れた天使にキスを。
「実は今日はお昼頃に学校抜けないといけなくて…代わりに涼雅が来てくれるから」
決して涼雅くんが嫌ってわけじゃないし、むしろ私なんかのために来てくれるから感謝の気持ちでいっぱいだ。
けれど───
神田くんと一緒にいられる、貴重な行き帰りの時間さえも失われるんだって思うと胸が苦しくなって仕方がない。
わかっている、我慢しなくちゃいけないって。
毎日の行きと帰りにこうして神田くんといられるのですら、ありがたいことなんだって。
「早く片付けられるように頑張るから。
あともう少し、我慢してくれる?」
まるで私を慰めるかのように頭を撫で、優しく話しかけられる。
「……うん、する。
だから無理だけはしないで」
ぎゅっと神田くんのシャツを握り、目を逸らさないよう見つめ返す。
神田くんが怪我を負ったりするのだけは嫌だ。
「無理なんてしないよ。
白野さんを悲しませたくないから」
「嘘だ、するもん」
「意外と白野さんって俺のこと信じてくれないよね」
「神田くんが怪我するから悪いの」
初めて神田くんの和彫りを見てしまった日も、彼の背中には複数の切り傷があったのだ。
必ず怪我を負わないという保証なんてない。
「大丈夫だから、俺を信じて」
けれど神田くんが私をまっすぐ見つめて言うから、信じたいと思った。
「……じゃあ約束、絶対に無理して怪我するなんてやめてね」
「うん、わかった。
もし破ったら白野さんからの説教?」
「あ、そうやって破る気でいる」
「怒っている白野さんもかわいいだろうなって思っただけだよ」
私は本気で言っているのに、神田くんはすぐからかうようなことを言う。
「絶対ダメです、無視します」
「無視するなら話聞いてくれるまでキスしてやるからね」
「……っ、結局意味ない…」
私が何を言おうと、彼はまったく動じず。
むしろ私を上回る発言をしてくるんだ。