闇に溺れた天使にキスを。
まずは神田くんがひとりでいるのだと思いたいため、空き教室へと向かう。
こんな不安になって神田くんに呆れられそうな気がするけれど、それでもいいから笑いかけてほしかった。
この不安を取り除いてほしかった。
少し駆け足で空き教室へ向かい、着いた頃には少し息が乱れていて。
そんな中息を整えながらドアを見ると、半分ほど開いていた。
なんとも言えない気持ちになり、最終的には罪悪感すら湧き出る中でゆっくりとドアに近づいたその時───
「ねぇ、どうして私じゃダメなの?」
どこか甘ったるい声が耳に届いた。
それも久しぶりに聞く、宮橋先生の声で。
「……華さん」
その後にすぐ神田くんの声も聞こえてきて、ドクンと心臓が嫌な音を立てた。
保健室ではなく、今ふたりは空き教室にいることが確定してしまった。
「拓哉さん、あの子なんかより絶対に私のほうがいい。私なら任務のために“道具”として使えるだろうし、拓哉さんにとってもプラスでしょう?」
見ないほうがいいとわかっているのに、体は自然と動いてしまい───
「……っ」
声が漏れないよう、とっさに自分の手で口を塞いだ。
視界に映ったのは窓際の椅子に座っている神田くんに迫る、宮橋先生の姿だった。
「お願い拓哉さん」
その時、神田くんのかけているメガネを宮橋先生がそっと外した。
けれど神田くんは一切動じず、彼女をじっと見つめているだけ。
その瞳は冷たかったけれど、それだけでは不安を拭えなくて。
「……いい加減、話してくれたらどうですか?」
ようやく神田くんが話し出したかと思うと、おもむろに立ち上がり宮橋先生の肩に手を置いて、突き放すように距離を開けた。