闇に溺れた天使にキスを。
「さっきから話を変えてばかりで、自分の都合のいいように持っていく」
「……それは拓哉さんでしょう?私の気持ちには一向に応えてくれない」
「俺には白野さんがいるんで、応えられません」
「私たちはもう体の関係を持ったのに?」
今度は神田くんのネクタイに手をかけ、ゆっくりと緩める宮橋先生の動作にすら色気を漂わせていて。
胸がぎゅっと締め付けられるように苦しくなった。
だってふたりは、私なんかよりもずっと深い関係で繋がっている。
たとえそこに感情はなかったとしても、その事実は変わらない。
「自分の武器にするための行為です。
お互い感情なんてなかったでしょう」
呆れたようにため息をついた神田くんが、宮橋先生の手首を掴んだ。
「拓哉さんが私を本気にさせたのが悪いんです」
「本気にさせたつもりはありません」
お互い一歩も引かず、さらには余裕すらも感じられる。
そのような空気の中、私だけが場違いに思えて。
やっぱりふたりは程遠い存在なのだと思うと、苦しくてたまらなくなる。
「それならせめてあと一回、私を抱いてくれませんか?そうすれば潔く諦めることができます」
そっと神田くんに寄り添う宮橋先生の行動は、手慣れているように思えて。
神田くんはなんて返事するのだろう───
疑っているわけではなかった。
もちろん断ってくれると信じていたけれど。
彼の返事を聞くのが怖くなって、気づけばその場から離れていたんだ。