闇に溺れた天使にキスを。



その紙は保健室の先生に書いてもらえる『早退届』の小さな紙切れだ。


一度だけ1年の時に使ったことがあるけれど、体温計で測った数字を先生が書き込んで、症状を書く。

それをその時の授業を担当している先生に渡すと帰れるのだ。


よっぽど何か他に早退の理由がない限り、保健室の先生───

つまり宮橋先生が書く。



あの後ふたりは保健室に行ったのだろうか。

もしそうだとしたら、保健室でふたりはこんな時間になるまでいったい何をしていたんだろう。


考えれば考えるほど苦しくなって、慌てて神田くんから視線を背けて俯く。

こうでもしないと涙が目から零れ落ちてしまいそうだったから。



一瞬だけ神田くんのほうから視線を感じた気がするけれど、彼のことを見る勇気なんてなかった。


結局彼が教室を出てドアが閉まる音がするまで、私は顔を上げることができなくて。



不安がどんどん積もっていく。

今日の朝まではすごく幸せで、神田くんがそばにいなくても頑張ろうって思えたのに。


今は神田くんと宮橋先生が別世界にいるようにさえ思えて。


涙が零れ落ちそうになったため、慌てて机に顔を伏せる。

先生から見ればきっと寝たと思われるだろうけれど、あと少しすればチャイムが鳴って授業が終わる。


だからどうか、それまでに涙を収めるんだと心の中で何度も唱え───



ぎゅっと目を閉じ、自分の視界を真っ暗にした。

< 444 / 530 >

この作品をシェア

pagetop