闇に溺れた天使にキスを。
「ご、ごめん…まだ教室で」
『本当に教室なのか?』
「うん…ごめんね、すぐ向かいます」
『バカ、心配してんだから早く来いよ』
いつもは意地悪なくせに、こういう時に限って優しいから泣きそうになってしまう。
もちろんバレないよう、涼雅くんに謝ってすぐ電話を切った。
「……よし」
心配かけさせたってどうにもならない。
それなら明日、神田くんに直接聞いたほうがいいんじゃないかって。
もちろんそんな勇気が私にあるかと聞かれれば、首を縦に頷けないけれど。
聞くんだって心の中で思っていたほうが、重い気分が少しは楽になるような、そんな気がした。
そこでようやく重い腰を上げ、鞄を手に持つ。
教室を出てから鍵を閉め、少し駆け足で職員室前まで鍵を返しに行った。
あとは靴に履き替えて裏門に行くだけだと思い、靴箱までの道のりである一階の廊下を歩いていたら───
「……っ」
反対側から宮橋先生らしき姿が視界に映り、思わず立ち止まってしまった。
今はあまり会いたくなくて、来た道を戻ろうと思ったその時。
「白野未央さん」
少し離れたところから宮橋先生が私の名前を呼んだ。
そのため自然と足が止まってしまう。
「どうして逃げようとするの?」
その声には余裕が含まれており、ドクンと心臓が大きな音を立てた。
何故だか嫌な予感がする。
できれば今は宮橋先生と話したくないと───
「ねぇ。今日の昼休みから拓哉さんの姿がなかったでしょう?」
もちろん彼女なんだから知ってるわよね、と続けて話す宮橋先生。
その瞬間、昼休みに見た空き教室でのことを思い出した。