闇に溺れた天使にキスを。
心臓の脈打つ音が速くなる中、すぐそばで宮橋先生が立ち止まったような気がして。
恐る恐る振り向けば、勝ち誇ったように笑っていた。
「ごめんね、あれから拓哉さんとイケナイことしちゃった」
追い討ちをかけるような言葉が放たれ、思わず口元を手で覆う。
一瞬のうちにして目に涙がたまり、何度も首を横に振った。
嫌だ、嘘だ、信じたくない。
そう何度も心の中で唱えながら。
「もっと詳しく説明してあげようか?
何していたのかって」
目を細めながら、妖艶に笑う宮橋先生。
私なんかと全然違う大人な雰囲気を漂わせており、自分がちっぽけな人間に思えた。
どうして、どうして神田くんは───
「かわいそうに、そんなに泣いて」
宮橋先生が私の頭を優しく撫で、気の毒そうに見つめてきた。
それでさえも苦しくなり、手を払いたくなるけれど。
そんな力すら今の私にはない。
「こんな弱い人間なのに、よく拓哉さんの彼女続けられるわね」
ふと、宮橋先生の声のトーンが落ちたような気がした。
「ねぇ、今の私にはあなたが邪魔で仕方がない。どうして拓哉さんがあなたを選んだのかって、今でもわからなくて腹が立つ」
撫でられている手がだんだんと下へおりていき、毛先までやってきたその時。
「私は拓哉さんのすべてが欲しいの。
危険を冒してでも全部が」
それは一瞬だった。
気づけば毛先に触れていた手が、私の首の根を絞めるように掴んできて───
「……うっ」
手に力が込められ、息ができなくなる。
いったい何が起こっているのかと、すぐに理解できなかった。
ただ本能が危険を察知し、無意識に宮橋先生の手首を掴んで離そうとするけれどまったく力が敵わない。