闇に溺れた天使にキスを。




「……華、お前こんなことして許されると思うなよ」


ドスの効いた声。
そこには脅しが含まれている。



「結局みんな、その子ばかりっ……別に言えばいいじゃない。組長でも拓哉さんでも、全員に言えばいい!」

「言う言わないの問題じゃねぇんだよ!お前は今、なんの罪のないひとりの命を奪おうとしたんだぞ!?」

「そんな女、消えればいいのよ!」


怒り狂ったように泣き叫ぶ声。
聞きたくない、耳を塞ぎたい。

怖くて、体が震えて。
ぎゅっと涼雅くんにしがみつく自分がいた。



「嫉妬で人を殺していいと思ってんのか?」
「その女が拓哉さんと私の邪魔するから…」

「もういい、二度と俺たちの前から現れるな。じゃないと俺は今すぐにでもお前に手をかけたくなるから」

「……っ、どうしてあなたまで」
「うるさい、喋るな」


その言葉を最後に、涼雅くんは私の体を支えるようにして腰に手がまわされた。


「……少しだけ歩くぞ」


私に声をかける涼雅くんは柔らかな口調へと変わり、優しく抱き寄せてゆっくりと歩き出した。



足にうまく力が入らないため、中々足を進めることができなかったけれど。

そんな私の歩調に合わせてくれる彼。


「もう大丈夫だから。
俺に体重かけとけばいい」

「うん……」
「来るの遅くなってごめんな」

「……っ」


いつもは意地悪で、バカにしてくるのに。

今はすごく優しくて、謝られるから戸惑ってしまうけれど。


その優しさに甘えさせてほしいと思った。

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