闇に溺れた天使にキスを。
「雪夜様!」
車が停まっているいつもの場所に向かうと、宮木さんが顔色を変えて私たちの元までやってきた。
「白野様はいったい…」
「華が裏切った」
「え…」
「白野の息の根を止めようとした」
静かに話す涼雅くんを見て、言葉を失っている様子の宮木さん。
かと思えば───
「……それで、華様はどこへいらっしゃるのでしょうか」
ゾクッと全身が震えるほど、宮木さんからは殺気を感じられた。
この人も危険な人なのだと思わせられる。
「あいつはもうほっとけばいい、今は白野優先だ」
「ですが、白野様を…」
「あいつのことを考えただけで反吐が出そうになる。
もういいんだよ、あとは拓哉の判断に任せれば」
突然神田くんの言葉が出てきて、宮橋先生の言葉が脳裏に浮かんだ。
『神田くんとイケナイことをした』
それってつまり、また関係を持ったということだろうか。
もしそうだとしたら───
神田くんの考えていることがわからない。
混乱する。
頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。
「それではとりあえず医者に診てもらいましょう」
「ああ、そうだな」
宮木さんはそう言うと後部座席を開けてくれる。
「白野、座るぞ」
また涼雅くんに優しく声をかけられ、一度だけ小さく頷いた。
涼雅くんは私が座るギリギリまで支えてくれ、それから彼自身も私の隣に座った。
「白野、ちゃんと意識はあるか?」
「……うん」
「どこか苦しいところとかあるなら正直に言えよ」
「大丈夫…」
本当は大丈夫なんかじゃなくて、先ほどから震えが止まらなくて───
特に手先の震えがひどく、不安定な心のせいでまた涙が目に浮かんでいると涼雅くんが私の手を握った。
「好きなだけ泣けばいい。
こんなに震えて…相当怖かったんだろ」
「……っ、涼雅く…」
私の肩を優しく抱いた彼は、温かく包んでくれて。
涙が止まることなく溢れてくる。
しばらくの間は泣き続け、神田組のツテがあるという病院に着く頃には目が赤く腫れていた。