闇に溺れた天使にキスを。



優しく接してくれる涼雅くんのおかげで、心が落ち着いたその時───


病院のドアが2回ノックされた。


誰だろうと思い、ふたりしてドアの方に視線を向けるとゆっくりと開けられる。



「……っ」


完全に開けられたドアから入ってきたのは、私の大好きな人の姿で。



「……白野さん」


ネクタイを外し、メガネもかけていない神田くんが私の名前を穏やかな声で呼んだ。


途端に涙が目に浮かび、また頬を伝う。


神田くんに聞きたいことはたくさんあるのだけれど、今は彼の姿を見て安心したのかそれとも嬉しいかったのか。


たくさんの感情が入り混じり、自然と涙が溢れてきた。



「神田く…」
「無事で良かった」


一瞬ドクンと心臓が嫌な音を立てた。


『無事で良かった』


その言葉は私を心配してくれたもので、嬉しいはずなのに───


どうしてか、素っ気なく聞こえたからだ。



「涼雅。大体の話は宮木さんから聞いたけど、あれから華さんの行方は追ってくれてる?」

「……は」


神田くんの落ち着いた声が耳に届き、一瞬息をするのを忘れてしまい、涙すらも止まってしまった。


突然『華さん』の名前が神田くんの口から出てきて、思わず体が硬直してしまう。


珍しく涼雅くんも今の彼の姿を見て驚いたようで、間抜けな声を上げた。


「……涼雅、どうして華さんを見逃したの?
華さんは今洗脳されているんだ」


神田くん以外誰も話さない。

彼は私のほうを一切見ず、涼雅くんへと視線を向けていた。


“洗脳”という聞き慣れない言葉ですら驚きを感じないほど、目の前の神田くんを見て涙が滲み、胸が苦しくなった。

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