闇に溺れた天使にキスを。



「だから白野さんの首を絞めたのも、本人の意思じゃない」



思わずぎゅっと、布団を握る。
宮橋先生を庇ったのが辛く、苦しいんじゃない。

けれどせめて、せめて───



私のことを少しは心配してほしかったなって。


『無事で良かった』のひとことで終わらせるのは虚しくて、苦しくなる。

確かに神田くんは、私じゃなくて宮橋先生を───



「華が洗脳されてた…?だったらなんだよ」


今すぐこの場から離れたくなり、俯いて神田くんのほうを見ないようにしていると、少し声を震わせながら話す涼雅くんの声が聞こえてきて。



「華さんだってどんな方法で洗脳されてたかわからない。きっと俺たちが考えるより辛い思いを…」

「今はそんな話する必要ねぇだろ!?」


ぽたっと、布団を握る手の甲に涙が零れ落ちる。



それでも肩を震わせながら必死で涙を堪えていると、涼雅くんが声を荒げて立ち上がった。


きっと、涼雅くんは私のために怒ってくれている。



「洗脳されてたからなんだよ、人殺していいのか?仮にも学校の教師に白野は殺されかけたんだ、それなのに拓哉はこいつを心配する前に華を庇うのかよ?」


鋭く神田くんを睨みつける涼雅くんは、今にも殴りかかりそうで。


ごめんなさいと、何度も心の中で謝る。


「涼雅、落ち着いて」

「逆になんで拓哉がそんな落ち着いていられんだ!?
いくら拓哉に感情が」


「だ、大丈夫だから…!」


私のせいで、私がいるから。
ふたりの間には険悪な空気が流れているんだ。

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