闇に溺れた天使にキスを。



「私は平気だから、大丈夫だから…ふたりは宮橋先生のところへ行って……っ」


必死に涙を堪え、話そうとするけれど。
自分の意に反して勝手に涙が溢れてしまう。

慌てて涙を拭うけれど、それは止まることがない。


「……っ、ごめ、なさ……」


その場にいるのが辛くなった私は、ベッドからおりて何も持たずに病室を飛び出した。


「白野!」


最後に聞こえたのは涼雅くんの叫び声。
もちろん振り返ることはせず、私は病院の外へと出た。



外は雨がすごかったけれど、あの病室にいるなんかよりもずっとマシだ。

私はずぶ濡れになってもいいと思い、迷わず外を走る。



傘をさす人たちとすれ違うたび、視線が感じたけれど。


「……うう」


雨のおかげで涙が誤魔化せるため、こんなずぶ濡れ状態なんて平気だと思えた。



「どう、して……」

情けない声が雨音でかき消される。

次第に足を進めるスピードが落ちていき、最後には立ち止まってしまった。


我慢できなくて。
堪え切れなくて。


力なくその場でうずくまろうとしたその時。



「……白野!」


雨音にも勝る声が少し遠くから聞こえてきた。
間違いなく、その声の主は───



「お前バカか!怪我人のくせに傘もささねぇでこんなところ来て」



私と同じように傘をささず、雨に濡れている涼雅くんの姿で。

走ってきてくれたのだろう、息が乱れていた。



「……っ、ごめんなさい…」


私を心配して追いかけてくれたのは涼雅くんで、神田くんじゃなかった。

もちろんわかっていた。
やっぱり神田くんは宮橋先生を選んだのだと。


けれどもしかしたら、心の片隅では期待している自分がいたのかもしれない。

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