闇に溺れた天使にキスを。
バカみたいだ。
私ひとりが浮かれて、ドキドキして。
もしかしたら彼の今までの反応は全部“作っていた”のかもしれないとすら考えてしまう。
「余計なことは考えなくていい」
ほんの一瞬の出来事だった。
涼雅くんが優しく声をかけてくれたかと思うと、背中に手をまわされてぎゅっと力強く抱きしめられる。
お互い雨に打たれずぶ濡れの状態だったため、逆に肌の温もりを感じた気がした。
「……っ、どうして…どうして神田くんは…」
彼の名前を口にするだけでも、胸が張り裂けそうなほど苦しい。
「やだよ……なんで、どうし…」
「いいから何も考えるな。今は拓哉のこと、忘れたらいい」
そんなこと絶対にできない。
私の心の中で、神田くんの存在はとても大きくて。
大部分を占めているのだ。
けれどもう私は神田くんのそばにいられない。
これから彼のそばにいられるのは、私ではなく宮橋先生なのだ。
「……っ、ああ…」
声を押し殺して泣くのを我慢しようとしたけれど、堪え切れなくて嗚咽が漏れながら泣いてしまう。
「今日はもう、俺に甘えればいい」
どうして。
どうして涼雅くんは、こんな取り柄のない私を優しく受け入れてくれるの。
その優しさは温かくて、まるで悲しい気持ちを包み込んでくれるようで。
こんな雨の中で、私が泣くまでずっと涼雅くんはぎゅっと抱きしめてくれていた。