闇に溺れた天使にキスを。
「……泣き止んだか?」
どれくらい経っただろうか。
少し雨の勢いが弱まった頃に、ようやく私は落ち着きを取り戻したけれど。
「ご、ごめんね…」
お互い髪や服はびちょびちょで、肌にピタリとひっついていた。
私はいいとして、涼雅くんには申し訳ないことをしたなという気持ちでいっぱいになる。
「別に、俺よりお前のが心配」
「え…」
「風邪ひかれたら困る。でもそんなずぶ濡れ状態の上に首もまだ赤い中で帰るのは嫌だろ?」
確かに今の状態を家族が見たら、どうなるかわからないため素直に頷く。
それにもう泊まるって言ってしまったのだ。
けれど今更病院に戻るわけにも行かない。
「なら俺の家って言いてぇけど、それだと拓哉の家になるし」
「……っ」
どうやら涼雅くんは神田くんと同じ家に住んでいるらしい。
なんせあの広い家だ、他にまだ何人も住んでいるだろう。
頭を悩ませている様子の涼雅くん。
相当気を遣わせてしまっている。
「……だ、大丈夫だよ…!私はほら、適当に友達の家とか…最悪おばあちゃんの家に行けばいいかなって」
「バカ、どっちも心配かけさせるだろ」
「でも本当に、大丈夫でっ…涼雅くんこそ早く家に帰って……」
「あのなぁ、俺は今このまま連れ込んでいいのかって悩んでるわけ」
「……へ?」
連れ込む?
固有名詞が出されていないため、“どこに”連れ込もうとしているのかわからない。
「……あー、もうめんどくせぇから行くぞ」
「行くって、どこに…」
「どっかその辺のホテル」
一瞬どきりとした。
その辺のホテルって……見渡す限り、そこに旅行客が泊まるようなホテルなんてない。
じゃあつまり、もしかして───
「あの、涼雅く……」
「他に行くあてないだろ」
「でも私たち、まだ学生で」
私服ならまだしも、私も涼雅くんも制服姿だ。