耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
(スケッチブックと色鉛筆……つい買っちゃった……)
店から出た美寧の手には、【Stationery Yanase】とロゴの入った袋が下げられている。
(お庭のお花……描いてみたいと思ってたんだよね。)
藤波家の庭を一目見た時から、常々そう思っていた。
美寧の数少ない趣味の一つは、色鉛筆を使った写生だ。
(れいちゃんが帰って来たら、お金を使ったことをちゃんと報告しないとね。)
所持金をほとんど持たず、着の身着のまままで怜のところに転がり込んだ美寧は、自分のものを購入するのも、怜に頼らざるを得ない。
ちなみに、美寧が今着ている服を始め、怜の家での“女の子の必需品”は、怜が買って来たものや、彼の友人がくれるお下がりだったりする。美寧自身が最初から持っていた物は、片手に治まるほどしかない。
(自分のものくらい、自分のお金で買えたらいいのになぁ)
『美寧が欲しいものがある時に使ってください』
表情を大きく変えることのない彼は一見クールに見えるが、とても優しい人だということに、美寧はとっくに気付いていた。
その彼が置いていってくれたお金を美寧が自分のことに使ったところで怒ることはないということは、美寧も重々承知だ。
けれど、今の自分はそんな優しい彼の重荷でしかない。
そのことが、美寧を申し訳ない気持ちにさせるのだ。