耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
ひと月ほど前、美寧と怜はとある約束を交わした。

『もう他の人には料理を作りません』

そう、怜は美寧に言った。その代わりに、と怜は美寧に言った

『キスするのは、俺とだけ。これからずっと』

と。

さっきのキスはそれを確かめるものなのだと分かっている。
分かっているけれど―――


(ううっ…ナギさんに見られた~~~っ)

戸棚と怜に挟まれる形になっていた美寧には、高柳がキッチンに入ってきたことに気付かなかった。高柳の方に背を向けていた怜に抱きこまれた状態だったから、正確にはキス自体を見られたわけではない。

けれど、キッチンでキスしていたという事実を知られただけで、美寧は顔から火が出るほど恥ずかしい。ただでさえ男性に免疫のないので、そんな場面を見られてしまうなんて羞恥の刑かと思えるほどだ。

席に戻ってからずっと、美寧はいつまでも赤いままの顔を上げられず、焼き上がってから少し時間の経ったミニケーキを黙々と食べていた。


(なにもお客さまがいるときにあんなことしなくても!)

声には出さずに怜を非難する。
そうだ、自分は悪くない――そう開き直ると、恥ずかしさよりも腹立たしさが勝ち始めた。
けれど客人の前で怜を非難することは憚られて、行き場のない怒りを抱えた美寧の目にワイングラスが入ってきた。

考えるより早くそれに手を伸ばす。隣の席の怜が気付くより早く、グラスの底に残っていた生成りがかった透明の液体をグイっと煽った。
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