耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

聡臣(あきおみ)は、都内の私立中学に通っている。
兄は毎年夏休みになると、ここ祖父の家に一週間ほど滞在するのが例年の習慣となっていた。自宅からここまでは車で二時間ほどかかる。

美寧は六つ上の兄が大好きで、いつも夏が来るのを楽しみにしていたのだった。

母方の祖父である榮達(えいたつ)は、明治時代に創業された財閥一族の直系で、美寧が生まれる前は母体となる企業の会長職を務めていた。そして美寧が生まれる少し前に第一線を退き、それと同時に別荘として持っていた高原地の邸宅に住まいを移した。


美寧が榮達の家に身を寄せるようになったのは、乳幼児の頃に気管支炎を患ったことがきっかけだ。
美寧を生んだ母の産後の肥立ちが悪かったこともあって、母子二人で都内の家を離れて空気のきれいなこの地で静養をしていたのだった。

成長とともに体も丈夫になった美寧は、いったんは幼稚園に上がる年には自宅に戻ったのだ。
けれどその年。美寧が四つの誕生日を迎えるよりも早く、母親が病気で亡くなってしまった。

美寧の父は仕事に忙しく、十歳だった兄はまだしも幼い美寧の世話まで手が回らない。
それでも父は、ベビーシッターや家政婦を雇いながら何とか幼稚園に通う彼女の世話をしていたが、幼い美寧にとって突然甘えられる母親がいなくなったことと、目まぐるしく変化する生活環境に、小さな体と心がついていかなかったのだろう。美寧は再び体調を崩しがちになり、もう一度祖父のもとで静養することとなったのだった。

もともと別荘だった祖父の家は、今は祖父の一人暮らしではあるものの、昔からなじみの家政婦が近所から通ってきてくれていて、乳児の時から世話をしてくれていた彼女に美寧も懐いていた。


それから四年。美寧はずっと祖父と一緒に暮らしているのだ。


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