耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
ゆっくりと背中を撫でて続ける大きな手。
その手は、拗ねてしまった美寧を叱ることも、いいかげんに機嫌を直せと急かすこともない。
兄と会えないことを悲しみにそっと寄り添ってくれる祖父の手に、美寧は段々と気持ちが落ち着いてきた。
膝の間に埋めていた顔を、すこしだけ持ち上げてみる。
頬の両側で三つ編みにした髪が揺れる。今日は暑くなるからと歌寿子さんが結ってくれたのだ。
「寂しいな」
聞こえてきた声。隣を振り仰ぐ。見上げた祖父はまっすぐ前を見ていた。
蝦夷春蝉の声が優しく降ってくる。
祖父の視線の先を追ってみると、雨上がりの光を浴びてキラキラと光る山紫陽花の隣で、緑の葉の上に紫色の鐘のような花が風に揺れていた。
隣で「雨降り花がきれいだな」と言った声が、心なしか元気がないように聞こえる。
美寧は、寂しいのは祖父も同じなのかもしれないと気が付いた。
祖父にとって兄はもう一人の孫だ。久しぶりに会える孫との夏を楽しみにしていたに違いない。
美寧は祖父の手の上に自分の両手をそっと重ねた。
「もう平気……だって、おじいさまがいるもの」
そう言うと、前ばかりを見ていた祖父の顔がこちらに向いた。
「そうか………そうだな。聡臣に会えないのは残念だが、わしも美寧がいるから寂しくないな」
「うん」
美寧が頷くと、榮達が微笑む。思わず美寧は大きな体に腕を回してしがみ付いた。
「おじいさま、だいすき」
「わしも美寧が大好きだ」
抱きついてきた美寧の体を、榮達も抱きしめ返す。祖父の匂いに包まれて、美寧はさっきまでぽっかりと空いた心の隙間が埋まっていくような気がした。