耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
(え、)

驚いた美寧が目を丸くしたのと、頭の上の手が動くのは同時だった。

「いいこ いいこ。にがぁいおすくり のむのは いいこ」

美寧は目を丸く見開いたまま固まった。そんな彼女と反対に、健を挟んだ向こう側の涼香が「あはははっ」と声を立てて笑い出す。

「あははっ、たける最高!この子ってば自分はお薬嫌いでいつも逃げ回るのよ?それでそれは、ちゃんと飲んだ時に言われるセリフ!」

「ままのおすくり(・・・・)は げんきのもとなの。ね、まま」

「そうよ~」

蕩けそうなほど甘い笑顔を浮かべた涼香が広げた両手の中に、健が飛び込むように駆け込んでいく。その小さな背中を見送りながら、美寧の胸が少しだけ軋んだ。

(私もそうやってよく、おじいさまに抱きついてたんだわ……)

戻ることのない時間が恋しくて、思い出すたびに胸が締め付けられてしまう。
健のように母の膝で甘えた記憶もない。

美寧が服の上から痛む胸を押さえていると、健が涼香の膝の上で「やっぱり おなかしゅいた~」とさっきよりも大きな声で言った。

お腹が空いたと訴える健に、涼香が「ちょっとだけ待って」と言いながら仕事用の鞄を手元に引き寄せている。そこから薬を出すのだろう。けれど膝の上でジタバタと動く三歳児に手間取って、すんなりとはいかないようだ。

(お腹が空いたちっちゃい子って、こんなふうになるんだ……)

天使のように愛らしい健が、小さな怪獣のようになっている。

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