耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
涼香が「お薬出すだけだから」と健に言うが、健はなかなかすんなりと大人しくなってくれない。終いにはぐずぐずと涙声で「おなかが~くっついちゃう~」と言い出して、見ているこっちまで切なくなってくる。

(なんとかしてあげたい……)

美寧は涼香親子の向こう側へ視線を動かした。開いた襖の間に立つ怜へと。
美寧がじっと見つめていることに、怜はすぐに気が付いた。

「れいちゃん……」

名前を呼んで、そのままじっと見つめる。
すると、怜はその涼しげな瞳を細め口角を少し上げた。

「ミネ―――」

襖の前に立っていた怜が、こちらに向かってやってくる。

「うん……あの、私……ちょっとお腹が空いたかも……」

「そうですか。今日はまだ何も食べていませんしね」

「うん、でもあんまり食欲はないの、だけど……なにか少しだけ、」

「少しだけ?」

「ん……甘いの、とか……みんなで食べるんだったら、私も食べれそうだし」

会話の間に美寧のすぐ目の前やってきた怜が、畳に膝を着く。そして美寧の方へ顔を寄せて来た。

(えっ!)

どきんと胸が跳ねた。

まさか涼香と健の目の前でキスをしてくることはないと思うのに、昨日高柳(おきゃく)がいた時にされたことの記憶が新しすぎる。

怜の顔がスローモーションのように近付いてくるのを、美寧は瞬きも忘れて見入っていた。

けれど、美寧の予想に反して、怜が顔を寄せたのは唇ではなく耳元だった。

「貴女のそういうところが好きですよ、ミネ」

美寧にだけ聞こえるよう囁いた声。
一瞬で高く跳ねあがった心臓に息をのむのと、耳殻をかすめた唇が離れて行くのは同時だった。






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