耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
どれくらい時間がたったのだろう。
熱と頭痛でぼうっとなっていた美寧の耳に、襖をノックする音が入って来た。
「入りますよ。」
その声が聞こえた後、静かに襖が開き、怜が入って来た。
畳の上を静かに歩いて美寧のところまで来た彼は、布団の隣に腰を下ろすと、両手で持っていた盆を床にそっと置いた。
「雑炊を作ってきました。食べられそうですか?」
美寧は小さく顔を横に振る。ズキンと頭が痛んだ。
辛そうに顔をしかめる美寧に、怜は眉を下げた。
「辛いでしょうが少しだけでも食べてください。食べたら薬が飲めますから少しは楽になると思いますよ。」
(お薬……)
さっきから酷い頭痛が続いている。この頭痛よりも食事を取る苦痛の方がマシに思えるほどだ。
熱や頭痛に関わらず、もうずいぶんの間、食事は美寧にとって苦痛なものだった。
ここ一年あまり、食事を美味しいと感じたことがない。どんな贅沢なご馳走も、有名レストランの食事も、砂を噛むような気持ちで飲みこんできた。
その結果、一回に食べられる量は幼児並みに落ち、大量に食べると戻してしまう。どうしても無理して食べないといけないことがあると、その後は三日ほど胸やけや胃痛で食事を取ることが出来なくなってしまうようにまでなっていた。
そんな状態なので、今の美寧は驚くほど細い。もともと身長も低く小柄な方だけど健康的な体をしていたのに、殊更細くなってしまった体は、そのせいだった。
ただでさえ、そんな状態なのに、数か月前からとあることのせいで胃痛が頻繁に起こるようになってしまい、食事は美寧にとって最も煩わしい事となったのだ。