耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
「起き上がれますか?」
美寧は、鉛のように重い体をゆっくりと持ち上げる。少し背中を浮かせたところで、怜の腕がそれをそっと助けてくれた。
「ちょっと待っていて下さい。」
布団の上に座った美寧にそう声をかけると、怜は足早に部屋を出ていく。戻ってきた彼は、両手でしっかりと抱えないといけないほど大きなクッションを持って来た。
「失礼。」
そう言うと彼はそのクッションを美寧の背中に当てる。
「これなら寄りかかっても食べられるでしょう。」
言われるままに寄りかかると、小さなビーズみたいな音がしたそれは、美寧の背中にピッタリとはまった。
(これ、ちょっと楽かも……)
クッションを気に入った様子の美寧を見て、薄く微笑んだ怜は、持って来た盆の上に乗っている小さな土鍋の蓋を開けた。
湯気がふわっと立ちのぼる。
白く上っていく蒸気に懐かしさを覚える。美寧がそれを見たのはあまりに久しぶりだった。
(おじいさまと暮らしていた時は、当たり前だったのに……)
幸せだった記憶は、遠い昔のことになってしまった。
温かな思い出に泣きそうになる。瞳が熱く潤みかけたけれど、もとから熱で瞳が潤んでいるので怜には気付かれていないだろう。
怜は土鍋の中身を少しだけ木の椀に盛ると、美寧に差し出した。